わたしは鳥のように歌うかわりに、この身の絶え間ない幸運に静かにほほ笑んだ。 ―ソロー『ウォールデン』 ウォールデンの湖のほとりに小屋を建てて住んでいた頃、ソローは夏になると時折、湖で沐浴をした後に、日当たりの良い戸口に座って、日がな一日、時が経つのも忘れてうっとり空想をして過ごしていたと書いている。とても行動的なソローが、畑仕事も読書も散歩もしないで、一日中ただ座っていたと読めば、その後、どんな言葉を予想するだろうか。 「私は夜のトウモロコシのように大きく成長した」 その瞑想のような時間はソローにとって、体を使って何かを成し遂げるよりもずっと有意義で、ムダどころか、かえって実り豊かな時間だったという。そして、上に引いた言葉が続く。深く穏やかな幸福感がソローを満たしていた。あふれそうなくらいなみなみと。 時を超えた絶え間ない幸運とは、何か問題が解決したからとか、特別なできごとがあったからとか、そんな条件とは一切関係のない、自分の存在そのものに湧き上がる歓びのようなものなのだろう。「戸口の前のヒッコリーの枝でさえずっていたスズメは、私の巣から聞こえてくる抑えきれない歓びのクスクス笑いを聴いていたかもしれない」 ソローを読んでいると、ときどき足元をすくわれることがある。文章のあちらこちらに金言のようなものが散らばっているから、つい何かを得ようと前のめりになりがちになる。ところが、こちらががっぷり四つに組んで、「あー、そういうことか」「私もそのように生きてみよう」などと、わかったような気になった途端、ソローはいたずらっぽく舌を出して、さっさと別のところへ行ってしまう。 「大切なのは、そこじゃないよ」と、言い残して。
by kayangarden
| 2021-05-09 22:06
|
by a.kuroyanagi
画像一覧
記事ランキング
最新の記事
外部リンク
以前の記事
2023年 10月 2023年 09月 2022年 11月 2022年 08月 2021年 10月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 09月 2019年 07月 2019年 05月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 05月 2017年 04月 2016年 07月 2016年 02月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 01月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 05月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 ブログジャンル
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
カテゴリ
ファン
|
ファン申請 |
||