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絶え間ない幸運

わたしは鳥のように歌うかわりに、この身の絶え間ない幸運に静かにほほ笑んだ。                    ―ソロー『ウォールデン』
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Instead of singing like the birds, I silently smiled at my incessant good fortune.                     --Thoreau, Walden


ウォールデンの湖のほとりに小屋を建てて住んでいた頃、ソローは夏になると時折、湖で沐浴をした後に、日当たりの良い戸口に座って、日がな一日、時が経つのも忘れてうっとり空想をして過ごしていたと書いている。とても行動的なソローが、畑仕事も読書も散歩もしないで、一日中ただ座っていたと読めば、その後、どんな言葉を予想するだろうか。
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「私は夜のトウモロコシのように大きく成長した」

その瞑想のような時間はソローにとって、体を使って何かを成し遂げるよりもずっと有意義で、ムダどころか、かえって実り豊かな時間だったという。そして、上に引いた言葉が続く。深く穏やかな幸福感がソローを満たしていた。あふれそうなくらいなみなみと。

時を超えた絶え間ない幸運とは、何か問題が解決したからとか、特別なできごとがあったからとか、そんな条件とは一切関係のない、自分の存在そのものに湧き上がる歓びのようなものなのだろう。「戸口の前のヒッコリーの枝でさえずっていたスズメは、私の巣から聞こえてくる抑えきれない歓びのクスクス笑いを聴いていたかもしれない」

絶え間ない幸運_a0276895_17383635.jpgソローを読んでいると、ときどき足元をすくわれることがある。文章のあちらこちらに金言のようなものが散らばっているから、つい何かを得ようと前のめりになりがちになる。ところが、こちらががっぷり四つに組んで、「あー、そういうことか」「私もそのように生きてみよう」などと、わかったような気になった途端、ソローはいたずらっぽく舌を出して、さっさと別のところへ行ってしまう。

「大切なのは、そこじゃないよ」と、言い残して。



by kayangarden | 2021-05-09 22:06
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